NO.136-1(メインコラム)
足るを知る
今週のテーマは「足るを知る」です。
先日、ロシアの文豪、トルストイが老子に傾倒していた、ことをある本で知り、さっそく調べてみました。
まずトルストイの民話「人はどれほどの土地が必要か」を紹介します。
人間の欲望とその結末を題材にしたお話しです。
ロシアの田舎にパホームという小作人がいました。
パホームは一生懸命働いてきましたが土地を持っていませんでした。
パホームはこう嘆きました、「土地さえあれば 怖いものは何もないのに。悪魔だってこわくない」
それを聞いた悪魔がパホームにこう返答しました。 「よしきた、お前と勝負してやろう、地面でおまえを虜(とりこ)にしてやろう」と。
その後パホームは苦労して地所持ちになりさらに一生懸命働いて地所を更に増やしていきました。
地所が増えるに従って暮しはよくなっていきましたがその生活に慣れると、また狭いと感じました。
そんなある時「よく肥えた土地をいくらでも安く買える」と聞いて辺境の土地パキシキールへ出向くと その村の村長が、「1日歩いた分だけの土地を1000ルーブリで譲ろう。ただし、日没までに戻ってくることが条件だ。」とパホームに言いました。
それを聞いたパホームは、時を忘れて遠くまで歩き、日没の刻限に気づき半狂乱で帰着したところで口から血を吐いて倒れました。
パホームの下男が駆け寄り抱き起こしましたがパホームは息絶えていました。
下男は土堀りでパホームの頭から足までが入るよう、きっかり(※)3アルシン分だけ墓穴を掘ってそこに彼を埋めました。
けっきょく彼の体を埋めるのに必要な3アルシン分の土地が、彼に必要な土地の広さだったのです。
(注※)1アルシンは71cm、3アルシンは213cmです)
次はトルストイが傾倒した老子の作「道徳経」の第三十三章を紹介します。
人の知恵を題材にしたお話しです。
人を知る者は智、自ら知る者は明(めい)なり。人に勝つ者は力有り、自ら勝つ者は強し。足るを知る者は富み、強(つと)めて行なう者は志有り。その所を失わざる者は久し。死して而(しか)も亡びざる者は寿(いのちなが)し。
≪現代語訳≫
他人を理解する事は普通の知恵のはたらきであるが、自分自身を理解する事はさらに優れた明らかな知恵のはたらきである。他人に勝つには力が必要だが、自分自身に打ち勝つには本当の強さが必要だ。満足する事を知っている人間が本当に豊かな人間で、努力を続ける人間はそれだけで既に目的を果たしている。自分本来のあり方を忘れないのが長続きをするコツである。死にとらわれず、「道」に沿ってありのままの自分を受け入れる事が本当の長生きである。
どうでしょうか?
紀元前6世紀の老子の時代、19世紀のトルストイの時代、そして21世紀の現在。
「足るを知る」は今も変わらぬ“戒め”です。